■イスラム国の暴挙■

 単純にこのタイトルをご覧になると「極悪非道」とか「痛恨の極み」とかいう論調になってしまいそうですが、もう少しこの事件の本質を考えてみる必要があると思います。

 やはりまず検証しなくてはならないのは1月17日の安倍総理のカイロでの演説です。総理は日本の中東新政策を発表した演説で「ISIL(イスラム国)と戦う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と述べました。これがイスラム国に対する敵対発言だと捉えられて今回の事件の引き金になったかどうかです。その後今回の脅迫に対して安倍総理が「今回の支援は人道的な支援で軍事的に加担しているわけではない」との釈明をイスラム教徒と敵対するイスラエルで、日本とイスラエルの国旗をバックに行ったことがよりイスラム国を刺激したのではないかということです。

 カイロの発言はどう考えてもイスラム国に対する宣戦布告としか読めません。この発言に関しては共産党の小池政策委員長がカイロでの演説には「非軍事の人道支援」という表現は無いと首相を参議院予算委員会で追及しましたが、安倍総理は「テロリストに過度な気配りは必要無い」と自分の発言の言葉足らずの部分については反省の発言はありませんでした。またイスラエルの発言についても議論はかみ合わず、安倍総理にはイスラエルでの発言が失敗だったとの意識は無かったようです。それどころか「必ず彼らに罪を償わせる」と発言して彼らをますます刺激しています。

 しかしとにかく私達は知らない間に十字軍に参加させられてしまいました。もうこうなっては「先方の誤解だ」というような釈明は彼らには通用しないでしょう。在外邦人を守る体制も軍備もないままに格好良く振る舞ったつけが一気に出て来た感じです。と言っていたら、今回の事件の前から日本は対イスラム国有志連合のメンバーであることが明らかになりました。昨年9月に公表された米国国務省の対ISIL有志連合参加国の初期メンバーの中に既に日本の名前があります。
 http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2014/09/231886.htm

 また2014年12月のアルジャジーラの記事では日本は有志連合35ヶ国のメンバーで、人道支援だけを支援する14ヶ国の中に名前を連ねています。ですから今更安倍総理のカイロの発言を非難することは的外れということになります。私達は4ヶ月も前に我が国の立場に関する情報を得て声をあげなくてはいけなかったのです。



■トマ・ピケティ氏来日■

 世界中で100万部以上売れた大ベストセラー「21世紀の資本」の著者、パリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏の来日で「格差社会」に関する議論が活発化しています。日本語版も13万部を超えたと言われていますが、700ページ以上もある経済書で5940円もする本がこれほど売れたとは驚きです。私も書店で手に取りましたが2、30ページ立ち読みして買いませんでした。興味がある方はバックナンバーで週刊東洋経済の1/31号を読まれれば大体のことがわかると思います。「世界的ベストセラーが20分でわかる」と紹介されています。

 ピケティ教授が来日されていた4日間、教授の言動がニュースにならない日はありませんでした。1月28日の参院本会議では「日本を元気にする会」の松田公太氏(タリーズの創業者ですね)の質問に答えて安倍総理は「我が国ではピケティ氏の言う資産課税の強化は執行上難しい」と述べて、国会論戦にまでピケティ教授の主張が取り上げられています。しかしこの安倍総理の発言の内容こそがピケティ教授の批判の対象となっています。ピケティ教授は面倒な税務政策を回避して安易な金融緩和に走るアベノミクスを批判しています。またピケティ教授の資産課税の根拠となる資本収益率>経済成長率の理論はある意味アベノミクスの逆の理論と言えます。反面金融緩和によるインフレと賃金上昇についてはピケティ教授は否定していません。但しバブルを生む資産インフレは否定するなど若干混乱も見られます。

 それにしても我が国ではどうしても格差社会の議論が盛り上がりません。それは事実なのか日本人の意識の問題なのかはわかりませんが、相変わらず「自分は中産階級」と考えている人が大多数を占めているからかも知れません。もともと我が国は「歴史上最も成功した社会主義社会」と世界中から揶揄されていた国で、「格差」と言っても他国の「格差」から見ると、とても「格差」と言われるほどの差はありません。例えば米国と我が国の役員報酬を比較した場合、トップの報酬では何百倍もの差があります。また我が国には世界でも例を見ない生活保護制度があり、最低賃金を上回るお金が支給されています。

 このような格差を実感している人が少ない我が国で「格差格差」と叫んでも興味を持つ人は少ないのでは無いのでしょうか?ピケティ教授の言う資産課税にしても財閥が解体され、農地解放が行われた我が国では「資産家」と言われるのはオーナー経営者であり、課税の強化対象となるのは経営権を表象する自社株が殆どですから、「資産課税」という言葉には馴染まないと思います。それよりも安倍総理が「これからは給料がどんどん増えます」と一流企業の賃金上昇を強調すると、逆に「私達の給料はちっとも増えない」と多くの人の格差感が上昇するかも知れません。




■スイス中央銀行の暴挙で市場が大混乱■

 1月15日スイス国立(中央)銀行がこれまで1ユーロ=1.2スイスフランに設定していた為替レートの上限をいきなり撤廃しました。突然の発表に市場は大混乱となり、一時的に値が付かない状態となりました。一時は対ユーロでスイスフランは41%も上昇しました。しかもそれが僅か20分の間の出来事だったそうです。スイスフランは対円でも1月15日の18時26分の114.98円が18時50分には166.23円まで急騰しました。その混乱の影響で円が他の通貨に対しても買われ、東京株式市場は暴落しました。スイスフランの預金を持っている人はいきなり財産が3割も増えたことになります。ヨーロッパではスイスフランからユーロに両替する人が両替所に殺到したそうですが当然の行為だと思います。

 スイスフランの売りポジションを持っていた人にとっては大打撃です。このおかげで国内外のFX業者が大きな損害を被りました。もちろんFX投資については証拠金を上回る損失が出た場合には強制ロスカットが行われますが、あまりの急激な動きに業者のロスカットの注文も受け付けられない状態が発生したようです。

 英国の有力FX業者アルバリは破綻しました。これによってアルバリジャパンの顧客の口座は総て強制決済されることになってしまいました。米国大手FX業者のFXCMは260億円の損失を出しました。日本でもGMOクリック証券や外為ドッドコム社が損失を出した、と言うよりも顧客の損失の未回収分が発生したことを発表しました。今後顧客が追加証拠金を入れられればFX会社に損失は発生しません。我が国ではFX取引の証拠金倍率がそれほど高くないので被害もそれほど大きくは無いと思います。

 直近のユーロ/スイスフランの相場見通しに付いての記事を読み返してみると、制限枠ぎりぎりまで近づいているので、このようなスイス国立銀行の動きを予想した向きもあったようです。フォレックス・コムを展開する米国ゲイン・キャピタル社は顧客に対し事前にスイスフランの売りポジションを取らないように呼びかけていたそうです。あまりの突然の出来事に世界中の金融関係者が驚愕していますが、このように今回の事態を予想した関係者がいたことにもビックリです。これまでユーロとの固定相場だったので、スイスフランを特に売買していた投資家はそれほど多くはなかったと思いますが、もし変動相場制でこのようなことが行われたら大変でした。それが行われたのは2011年9月のことでした。スイス国立銀行は2011年9月7日に1ユーロ=1.2スイスフランの上限を定め、無制限の為替介入を行いました。このときは僅か3時間の間に1スイスフランが97円から90円に暴落して私は大損害を被りました。私はこんな馬鹿な政策がいつまで持つのかと冷ややかに見ていました。「今に大量のユーロを抱えて為替介入を断念するに違いない」と思って、下がったスイスフランを買おうかとも思いましたが、あまりに長期に続く固定相場に嫌気がさして放っておきました。

 2011年9月のメッセージでも私はスイス国立銀行に対する恨み辛みを散々書きましたが、またこのような裏切り行為をやるとは中央銀行にあるまじき行為です。自分本位で、金融市場に与える混乱を無視しているとしか考えられません。まあ、昨年10月末の日銀の黒田総裁の「異次元の金融緩和の追加策」もある意味同じようなことが言えます。あれで一気に為替は10円近く円安になりましたが、サプライズ効果を期待したとしか言いようがありません。需給関係で効果を求めるなら段階的な緩和を行えば良かったので、その場合にはあれほど急激な動きにはならなかったと思います。多くの企業経営者が求める「為替の安定」を無視した行為だったと思います。



■特定秘密保護法の施行■

 昨年12月10日特定秘密保護法案が施行されました。まだ監視機関が十分に整わないうちの見切り発車です。国会に設けられた情報監視審査会は未だにメンバーさえ決まっていません。サンデーモーニングで田中秀征氏が特定秘密保護法案の施行に関して、「審判が来る前に野球を始めたような印象だ」と言っていましたが、最高の比喩ですね。こういうわかりやすい解説が私は大好きです。

 以前自宅の近くにワンルームマンションが建てられようとして住民説明会が開催された時に、工事業者が「工事協定は工事が進められる過程で順次決めていきたいと思います」と言ったので私が「とりあえず試合を始めましょう、ルールはプレーしながら決めます」ということかと言ったら、業者が黙ってしまって、そのためずいぶん工事が遅れる事態を引き起こしたこと思い出します。やはりわかりやすい例えというのは説得力があります。しかしそれでも聞く耳持たない政府を持ってしまった私たちは不幸としか言いようがありません。「国民の知る権利」はますますないがしろにされていきます。



■国民の貯蓄率が初めてマイナス■

 昨年12月25日に内閣府が2013年度の国民経済計算確報を発表しましたが、それによると国民の貯蓄率が1.3%のマイナスとなりました。統計を取り始めた1955年以来初めてのことです。細かく言うと可処分所得が277.6兆円、消費額が281.3兆円と貯蓄額が3.7兆円のマイナスとなりました。可処分所得は1.7兆円増加したのに対し、消費額が8兆円増加したのでこのような結果となりました。2013年には総人口に占める65歳以上の人口が4分の1となり、受給する年金で生活費に不足する人は貯蓄を取り崩して行きます。国民の金融資産1400兆円と言われていますが(もちろん負債もあります)、だんだんこの金融資産も取り崩されて行くことになると思います。実質賃金も減少を続けていますし、日本全体で見ると、国民の暮らしはますます厳しくなっていると言えます。

 一方2月10日に財務省は「国の借金」の残高が昨年12月末時点で1029兆円に達したと発表しました。国債の発行残高は9月末に比べて6兆4千億円増加しています。「国の借金が幾ら増加しても個人金融資産が1400兆円もあるから大丈夫だ」という発言は以前からよく聞かれましたが、その個人金融資産が取り崩されて来ても未だにそのような発言がなされるでしょうか?また現在の国債の発行額の多くを日銀が引き受けており、個人が国債保有額を増加させる動きはありません。個人は基本的には長期投資と言うよりは「置きっ放し」ですから現在のような低金利の時に国債など購入しません。それどころか以前から所有していた国債を売却して生活費に充てるような動きが広まっています。

 メディアの動きを見ていると、今回の貯蓄率のマイナスに関して、「今後は国債の個人消化が難しくなるだろう」とか「アベノミクスの失敗で個人の家計が厳しくなっている」といった報道が多いようですが、その中で三井住友信託銀行が2015年2月の調査月報で次のようなレポートを出していました。

 『消費額が大幅に増えた理由は①消費税率引き上げ前の駆け込み需要②円安によるエネルギーや食料品価格上昇による家計負担増加③資産効果による消費マインドの改善と考えられ一時的なものである可能性が高い。2014年度は雇用者報酬の増加と駆け込み需要の反動による消費減で貯蓄率がプラスに戻る可能性は高い。少子高齢化による家計貯蓄率マイナス時代が始まったと考えるのは時期尚早であろう。』

 確かに家計貯蓄率がマイナスになったからと言って、みんなが貯蓄を取り崩して生活するようになったとは限りません。今回の貯蓄率のマイナスはそれほど大騒ぎするほどのことではなさそうです。



■新相続税制■

 とうとう新相続税制が適用されます。一言で言えば、相続税が概ね増税となり、贈与税はケースによっては大幅に減税です。税法で言えば贈与税も相続税法に規定されています。よく勘違いされる方がいますが、「贈与税法」という法律はありません。1月1日からの大きな改正は以下の通りです。

・基礎控除額が大幅に減額されました
 定額控除部分が5000万円から3000万円に引き下げられました。相続人1人当たりの控除額も1000万円から600万円に引き下げられました。これによってこれまで相続人が配偶者と子供2人の場合基礎控除額が8000万円だったものが4800万円に引き下げられました。都心部の一戸建てにお住まいの方は後で述べる小規模宅地の評価減を受けられないと殆どの相続に関して相続税が発生することになると思います。

・最高税率が引き上げられました
 これまで相続税の最高税率は50%でしたが、今回の改正で相続財産6億円超の場合に            は55%に引き上げられました。ただ、これも勘違いされやすいのですが、各人が取得する財産が6億円を超えた場合ですから、相続財産が20億円以上の方のケースです。

・小規模宅地の特例の対象面積が拡大されました
 例えば皆さんに最も関係のある居住用宅地の場合80%の評価減が受けられる面積が240㎡から330㎡に引き上げられました

・相続時精算課税の適用要件が緩和されました
 贈与者が65歳から60歳に引き下げられ、受贈者も20歳以上の子供に加えて孫も対象となりました。

 基礎控除が引き下げられた為に、申告しなければならない人が激増までとは行きませんが、かなり増加することは間違いありません。以前は居住用宅地に関しては何らかの減額を認められていましたが、現在は自宅を別に持っている子供が親の自宅を相続しても何ら軽減措置は受けられず、相続税評価額そのままの評価で課税されることになります。今後は相続が予定される場合には持ち家を事前に売却して、税務用語で言う「家なき子」になっておく必要があります。またこれは奇策ですが、子供が自宅を持っている場合には孫を養子にして孫に相続させるという方法もあります。孫は大体まだ自宅を所有していないでしょうから「家なき子」として取り扱われ、330㎡の居住用宅地が80%も減額されるので、相続財産のメインが居住用宅地であった場合には殆ど納税の心配が無くなります。ただ、相続した孫は相続財産に居住しなくてはなりませんので、幼い孫しかいない場合にはこの対策は使えません。また貸家を建てるとか、時価に比べて評価額の低いタワーマンションを購入するような呼びかけもありますが、出来るだけ小さな動きで節税を考える場合にはお薦めかも知れません。



■本当に読みがあまいJR東日本■

 先月のメッセージでもお話した東京駅100周年記念Suicaの申し込みが1月30日に開始されましたが、僅か3日間で申し込み枚数が170万枚に達したそうです。それに対してJR東日本が想定して準備している枚数は僅か10万枚だそうです。「読みがあまい」としか言いようがありません。

 このSuicaについては1月20日にJR東日本が10万枚を増刷すると発表していました。JR東日本では2001年以降30種類の記念Suicaを発売して、是までの最多販売枚数が10万枚だったところから今回も10万枚増刷すれば足りると判断したようです。しかし今回のSuicaは節目の100周年記念ですし、メディアで先日の騒動があれだけ大きく報道され注目を集めていたのですから、これまでの最高枚数を上回る申し込みが出るのは当然のことだと思いますが、それがJR東日本では全く予想出来ていなかったということです。こういう人達に経営を任せておいて大丈夫なんでしょうか?

 こういう公共輸送に関わる人達は常に見通しがあまくなる傾向があります。最たる物は地方空港です。登場客数を大幅に見誤り、閑古鳥が鳴く施設を作り上げてしまいました。道路や橋も同じです。自分達の都合の良いように予測数を見積もってしまいます。その割には今回のように儲けるチャンスを失いかねない事態を引き起こしてしまいます。ビジネスセンスが無いために、このようなチャンスに収益をあげようとは考えていません。今回のSuicaは1枚2000円で預かり金500円を含んでいますからチャージ分は1500円です。今回のSuicaの内何割かは死蔵することが予想されますから、JR東日本にとっては何十億円も儲かるチャンスだったと思います。余ってしまった時のことを心配しているのでしょうか?それだったらいつでも買えるようにしておけば良かったのではないでしょうか?

 JR東日本では今月9日の締め切り後に年度内送付の10万枚に関する抽選を行い、外れた人には逐次送付の予定だそうです。おかげでヤフオクのこのSuicaのマーケットがまた盛り返して来ました。と言っていたら何と5日間で300万枚を突破したそうです。これは1年間のJR東日本のSuica販売枚数と同じぐらいの枚数だそうです。170万枚突破のニュースが流れて「じゃあ私も」と申し込まれた方が多かったのでしょうか?この調子で行くと最終的な申し込み枚数は500万枚ぐらい行くのではないでしょうか?発表が楽しみです。そうなると配布が完了するのは今年の後半になってしまうでしょうね。またJR東日本のお詫び会見が見られるかも知れません。



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