■ 突然の税制改正 ■


 昨年12月18日、与党税制改正大綱が公表されましたが、その中にビックリ仰天するような項目が登場しました。それは不動産譲渡における損益通算規定の廃止です。平成16年以降の土地建物等の譲渡損失の金額については土地建物等の譲渡による所得以外の所得との通算が認められなくなりました。また、当該譲渡損失については翌年への繰越しも認められなくなりました。これは何の前触れもなく突然出てきた改正ですが、影響は甚大です。
 バブル期に不動産を購入し、今でも多額な借金の返済に苦しんでいる方にとっては、今後売却によって損失が出ても全く税制上のメリットを受けられなくなってしまいました。これまでバブル期に不動産を購入した人に対しては負債減免等の様々な論議がなされてきました。しかし新規の住宅取得者には様々な購入に伴う優遇措置が講じられるのに対し、高額のローンの返済に苦しむばかりか、価格の大幅な下落によって抱えることになった所有する不動産の膨大な含み損に対しては、消費や税収に全く貢献が無いとの理由で、何らの救済策も実施されることはありませんでした。それに加えて今回の死者に鞭打つような冷たい改正です。そもそも雑所得以外の所得から生じた損失については他の所得と通算できるのが所得税の大原則です。これまで何回も問題になりながら未だにゴルフ会員権の譲渡による損失が他の所得との通算を認められているのに対し、何故土地、建物の譲渡による損失については他の所得との通算を認めないのか、全く理解できません。 
 今回の税制改正においては「基本的考え方」において「土地の譲渡益課税を軽減し、土地取引の活性化を促進する」と述べているにもかかわらず、譲渡損失と他所得との損益通算(相殺)を今後認めなくなれば、過去に高値で購入した不動産の売却は一向に進まなくなってしまいます。もしこの取り扱いに関して1年間の猶予期間をおけば、まさに「投げ売り状態」になり土地取引量は激増したと思われます。今回のように納税者によっては著しく不利になるような改正を年末に突然駆け込み的に行おうとするのは感心しません。今回の改悪を見ると、税制的には遙かにおかしいと感じられる「ゴルフ会員権の譲渡損失の他の所得との損益通算」が将来認められなくなる可能性は非常に高く、そしてそれは抜き打ち的に行われるであろうと思われますのでご注意下さい。ゴルフの会員権は売却しようと思っても、株式のように1日や2日で売れるものではありません。焦って売ろうとする人が何人も出てきたら気配が下がるばかりで売買は成立しません。もし大きな含み損のあるゴルフ会員権をお持ちでしたら、そろそろ行動に移されたらどうでしょう。
 バブル期に借入金で不動産を購入した場合、10数年経った今でも、負債が不動産の時価を上回っている例は多いと思います。今回の改正で住宅ローン額が売却額を上回った場合、当該金額を他の所得から控除できるという画期的な措置が講じられました。実際の損失とは関係ない金額の所得控除を認めると言うことはこれまでの日本の税制上前代未聞です。とは言え、もしこの恩典を受けようとする場合には、自宅を売却しなければなりませんが、そのためには住宅ローンに係わる抵当権の抹消が必要です。例えば、10年前に1億円の住宅を1億円の借り入れで購入し、現在4000万円で売却しようとしている人がいるとします。多分住宅ローンはまだ6000万円以上残っているはずです。この人が自宅の売却に成功すれば、売却価額を上回る住宅ローンとの差額2000万円を他の所得と通算、及び翌年への繰り越しが可能となりますが、そのためには住宅ローン6000万円を一旦返済しなければなりません。と言うことは手許から2000万円を支出出来なければ自宅を売却することが出来ません。確かにこれは画期的な税制改正ですが、どれだけの人がその差額を手許から支出出来るかは疑問が残ります。
 今回の改正は、あまり意味のない救済策と致命的な増税策の混在した税制改正と言えます。
 以上お話ししたように、今後含み損を抱えた自宅以外の土地建物等の譲渡に係わる損失については、他の所得との通算も出来なければ、翌年への繰越も出来なくなりました。ですから今後含み損を抱えた不動産に関しては、居住用不動産に転換してから売却することを考えるべきです。居住用不動産に関しては譲渡損失に関してこれまで以上の優遇税制が適用されています。
 なお、長期譲渡所得の100万円の特別控除も本年から廃止されます。但し長期譲渡に係わる税率については、これまで所得税20%、住民税6%の合計26%でしたが、今回の改正で所得税15%、住民税5%の合計20%に引き下げられました。参考までに申し上げると非上場株式の譲渡税率も26%から20%に引き下げられました。
 また今回の大綱の前文から推測すると平成19年度の消費税の増税がはっきり読み取れます。
なおこれまで申し上げたことは平成15年12月17日に公表された与党税制大綱に基づいてお話ししています。最終的な法律は確定していませんので、その点十分ご注意下さい。



■ 国家財政不安 ■


 年末に国家財政の不安に関する多くの書物が出版されました。代表的なものとしては、副島隆彦氏の「預金封鎖」(実践対策編)、浅井 隆氏の「国家破産サバイバル読本(下)」が挙げられます。両著とも前作で巷に相当の不安感を植え付けた書物ですが、その警告の緊迫さ、重大さはいっそう迫力を増しています。「またか」と思われる方も多いかと思いますが、是非一度お読み頂きたいと思います。特に「国家破産サバイバル読本」においては平成8年の通産省と経済企画庁の2025年までの経済成長と国民負担率をシミュレーションした資料を掲載していますが、どちらの資料においても国民負担率は2025年には50%を遙かに上回ることになっています。また通産省の資料によれば、財政赤字を考慮すると国民負担率は2010年に59%、2025年には92%にもなることになっています。
 このような本を読めば読むほど不安が増してきますが、一方、これらの本でアドバイスされた通りに行動すれば、人一倍ハッピーになれるような錯覚も起きます。世の中の人々が不況とインフレに苦しんでいる中で、事前に海外に逃避させていた資産を日本に持ち込み、暴落した不動産を買い漁るといった、まるで戦後混乱期の大儲けのような機会が再び訪れるかも知れません。
 両著にも書かれていますが、もしかしたらハイパーインフレが前述のバブル期の不動産購入で大損を被った人たちのリベンジになるかも知れません。もちろんハイパーインフレになれば金利も急上昇しますが、固定金利は全く変動しません。従って、両者の言に従えば、究極の対策は、ハイパーインフレが発生する直前に金融機関から長期の固定金利で借入れを行い、借り入れた資金を外貨建ての金融資産に投入すべきということになります。また、国家財政の破綻をきっかけとしたハイパーインフレは通常のインフレと異なり、通貨価値の暴落が発生し、人々が一斉に円資産からの逃避を図るために、株や不動産も一時的に大暴落すると考えられます。ですからハイパーインフレが発生した後に海外に移転していた資産を国内に持ち込めば、大暴落した良質な不動産を購入出来る千載一遇のチャンスが生まれるかも知れません。
 もし通貨不安が発生した場合には、人々が円通貨を外貨資産あるいは金等の世界的共通価格の実物資産への転換を図ろうとしますので金融界は大混乱が起きます。先月までお話ししてきたような「預金封鎖」が実施されなくとも、キャピタルフライト(資産の海外への逃避)を防ぐために、政府は預金の引き出しや海外送金の制限を設けるでしょう。日本における外国銀行にも引き出し制限の手は及ぶかも知れません。但し外国銀行の外国口座の日本国内における預金引き出しについて制限を設けることは不可能です。従って外銀の外国口座に資金を移転しておけば(もちろん円以外の通貨で)、円暴落のリスクを回避出来ます。またドルについてはちょっと不安ですが、ユーロキャッシュを手元に保管しておけばこれについても円暴落のリスクを回避することが出来ます。これらの本の中では貸金庫の中まで政府の手が及ぶと論じているものもありますが、まさか文化国家の日本で私有財産の略奪が行われるとまでは考えられません。もしこの点に不安を持たれている方は海外の貸金庫を利用するしかないでしょう。また、自宅の金庫ですが、過去においてハイパーインフレの発生したアルゼンチンやロシアでは治安状態が極端に悪化したそうですから、自宅に保管することはお勧め出来ません。(でも強盗に入られたら、多少は財産があった方が安全でしょう)
 話は変わりますが、ハイパーインフレになると生命保険が無意味になります。戦後生命保険に加入した人が何十年も保険料を支払って満期時に僅か100万円ほどしか受け取れなかった、といった話を昔はよく聞きました。これは通常のインフレ下の話ですが、トルコやアルゼンチンのように年率100%、あるいはロシアのように年率1000%を超えるハイパーインフレ時には生命保険は全く意味がありません。従って仮にハイパーインフレほどではなくても、今後インフレを予想する場合には長期の保険は避ける必要があります。日本の財政のバランスを収支均衡以上に持っていくためにはハイパーインフレほどではないにしてもインフレは不可欠です。それでも、もしもの時のために生命保険が必要と考える方は海外の生命保険に加入するしかありません。
 審査のために海外に行かなくてはならないという面倒くさい点はありますが、保険の種類によっては資産逃避と保障のダブルメリットが得られます。これがベストな選択かも知れません。海外には「ユニバーサル保険」といって運用商品を自由に組み合わせることが可能な保険があります。資産運用に重点を置いた保険を選択すれば、日本より遙かに高い予定利率で運用されるため、資産逃避と運用とそしてある程度の保障という3つのメリットを享受出来ます。そして日本の金融機関からの固定利率による長期の借入金で保険料を支払えば対策は完璧です。これが究極のキャピタルフライトかも知れません。注意すべき点は、自分あるいは身内の人で海外の保険会社の審査をクリア出来る人がいるかどうかという点と、海外の信頼出来る保険会社を選択する必要があるということです。ご検討下さい。



■ 情報 ■


 年末から年始にかけてこのような本ばかり読んでいましたら、エネルギーが湧いてきて、テンションが高まってきました。今更「一旗揚げよう」などという気はさらさら無いのですが、世の中の大勢に逆らって「チャンスを物に出来る喜び」が感じられそうな時代になってきたような気がします。とにもかくにも情報の入手が大切です。情報が多すぎて困ることはありません。マネックス証券の松本大氏が著書の中で述べています。「情報収集術の肝は量です。いかに大量の情報に接するかによって自ずと情報を見分ける目が肥え、何よりも判断の間違いを少なく出来るというメリットがあります」また人によって情報量に差が出るのは好奇心が強いか弱いかだとも言っています。好奇心の強い人ほど情報収集に貪欲になるようです。私も好奇心の強さでは誰にも負けないと思いますので頑張ります。
 新年早々重い話ばかりになってしまいました。申し訳ありません。

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